買い物から帰ってきて、見当たらないハナクソを探していた奥さんの耳に入ってきた「ミィ、ミィ」というかすかな鳴き声。
どうやら、その鳴き声はベランダの外から聞こえてくるようである。
奥さんは慌ててベランダから身を乗り出して耳をすますと、やはり、それはベランダの外、それも下の草むらから聞こえてくるようなのである。
「落ちたんだ!」
これは大変。どこから落ちたかは分からないが、心配していた事が起きてしまった。
ダッシュして玄関から慌てて外に出て、建物をぐるりと回ってベランダの下に駆けつけ、鳴き声を頼りに草むらの中を覗き込むと、そこに怯えたようにハナクソが「ミィ、ミィ」と鳴いているのである。
「大丈夫?」
このくらいの子猫がいったいどのくらいの高さから落ちても大丈夫なのかはさっぱり分からないが、とにかくここから助けなければと、心配しながら草むらに手を差し伸べると、警戒しているのかハナクソは奥の方へと逃げていくのである。
「大丈夫だよ、助けてあげるから。みんなの所に連れて行ってあげるから」
ハナクソを救出するべく悪戦苦闘してどのくらい経っただろうか、実際は数分かもしれない。
やっとの思いでハナクソを捕まえると、あたりに気づかれないように懐に抱え込んだ状態で家の中に一気に駆け込んでいったのである。
そうなのである。ペット禁止のこのマンションで、万が一この様子をご近所さん、ましてはマンションの住人に見られたとしたら、ここを出て行かなければならなくなるかもしれない。
しかし運が良かったのか、この救出劇の間、辺りに人影は見当たらず、この様子を見られる事もなく、ベランダに戻ってきたハナクソはといえば特に怪我もなく、何食わぬ顔でもう他の子猫達と遊んでいる始末。「まったく〜。人の心配も知らずに」
奥さんは、まいったまいったという様子でベランダの子猫達を見つめていたが、何はともあれ、怪我もなくホッと胸を撫で下ろしたのであった。
もちろんこの夜、旦那が帰ってきてから、奥さんはこの話を「ハナクソ救出大作戦」と名付けて、大いに盛り上がった。

しかし、申し訳ないが「大作戦」というような作戦は特になかったようである。
ただ、夫婦にとってはず〜っと忘れられない出来事となった。
※さすがに大慌てだったので、残念ながらこの時の写真はありません。
つづく

