それは、ベランダに猫一家が現れてからおよそ2ヶ月程のことである。
日も暮れだした夕方、何気にベランダの様子を見に行った夫婦は、目にしてしまったのである。
ベランダの下から広がっている駐車場にいる茶タロウの姿を。
「あっ!茶タロウが駐車場にいる!」
そう、気になっていた「次なる行動」が起きてしまったのである。
ついにベランダから脱出してしまった!
駐車場を横切っていく茶タロウの先には、ハナクソもいるようで、ちょろちょろと、外の世界を歩いているのである。
そう、危なっかしくちょろちょろと。
それは、ベランダの柵の上を歩くようになり、ベランダで大運動会よろしく走り回ってから、すぐの事であった。
それまでは、夫婦にとって、ベランダと部屋の中で、自分たちだけの、自分たちの世界だけの猫一家が、ついに本当の外の未知なる世界に踏み出して行ってしまったのである。
覚悟はしていたが、実際に子猫がベランダから脱出した姿を目の当たりにするのは、何とも寂しい思いであった。
自分たちだけの、空間が壊れてしまったという、身勝手な思いからである。
本当は、子猫達の成長を喜ぶべきなのは、分かっているのだが。
それと、もっと大事なのは、これから先の子猫達の事を心配しないといけない事も…。
ところでいったい、どのように外へ降りたのか。
漠然と覚悟をしていたとは言え、いったいどうやって…。
その 行動を知りたくて、子猫達を観察していると、実は、何て事はなかったのである。まずは、ベランダの柵の下の隙間に陣取り、前屈みに外へ向かって飛び降りようと体勢をとったその視線の先には、ベランダの前に駐車している車の屋根。
そうなのである。ベランダから車の屋根まで、今や大運動会の時のように飛び跳ねている子猫達にとっては、ちょっと勇気を出せば十分飛び移ることのできる距離と高さだったのである。
そう、後は子猫達の外の世界への好奇心が、その距離と高さに対する不安を上回るのを待つだけであったのである。
車は常に駐車している訳ではなかったので、それには気がつかなかった夫婦であった。
一旦、外の世界を知った子猫達の冒険心を止める事はもう出来るはずもない。
これからどうすれば良いのだろうかと、漠然とした不安が、またもたげてきた夫婦だったのである。
つづく

