その日、部屋に入ってくる猫一家もいなくなり、気になるベランダでの大騒ぎもなくなった夫婦は、ベランダに一匹残されたしっぽの事を気にしつつも、夜に久しぶりに2人で食事に出かけていた。
別に、猫一家がいる間に一度も夫婦揃って外出しなかったわけではない。
どちらかというと、外出しても、それまでは母猫小町が子猫達の面倒を見ているので、特に問題や心配する事はなかったと言ってもいいかもしれない(騒ぎを起こさないかはハラハラしていたが)。
ただ、この時は状況が変わっていたのである。ベランダにはしっぽだけなのである。ところが夫婦は、お酒も飲んでいたその夜はベランダに残してきたしっぽの事をちょっとだけ忘れてしまっていた。
時期は梅雨。
いつしか雨が激しく降り始めていた。
外で食事を終えた夫婦はお酒が入っていた事もあり、ご機嫌な気分で帰宅した。
夜もかなり遅く、時間は11時頃だったであろうか。
雨にも降られたので、慌てて部屋に入り荷物を置いてとりあえず一息ついた。
酔っ払い気味の旦那は気分もよく、何やらたわいもない話を奥さんに話しかけていたその時、奥さんが急に、
「ちょっと、待って!」
奥さんが話をしている旦那を片手で制して、もう片方の手で耳をそばだてると…
聞こえてきたのである。
雨音にまぎれてかすかな鳴き声が。
ベランダで一生懸命に叫ぶ、「ミィミィ」という小さな小さな、そして悲痛にも聞こえる鳴き声が。
お酒がまわっていた旦那も、話の途中に急になんだろうと思う間もなく、その声を確認するとハッと我に返り、横でじっとその声に耳をそばだてている奥さんと目を見合わせた。
それは、間違いなくベランダに今だ一匹取り残されているしっぽの鳴き声であった。
こうして、運命の夜は始まったのである。
つづく

