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見出しタイトル 雨の中の鳴き声

外から帰ってきた夫婦の耳に聞こえてきた、ベランダからの「ミィミィ」という懸命な鳴き声。

夫婦は慌ててベランダに駆け寄り窓を開けると、激しく降り出し、ベランダにも降り込んできている雨の中、カゴの中にちょこんと収まり、ベランダの外に向かって必死に鳴いているしっぽの姿がそこにあったのである。

その姿はまるで、小町と兄弟達を呼んでいるようであった。

しっぽは、ベランダから身を乗り出して心配そうに見ている夫婦の事も気に留めずに、外に向かってずっと鳴き続けている。
降り込んでくる雨の中、小さな小さな身体一杯に鳴いている。

しばしその場に立ち尽くし、その様子をじっと見つめていた夫婦は、胸が締めつけられるような思いであった。
その必死に鳴くしっぽの姿が何だか不憫で、かわいそうで、たまらない思いである。

そして、こんな状況にしてしまったのは自分たちの責任なのではないか…。
一時であれ、今夜しっぽの事を忘れてしまって申し訳ない…。そんな事も思っていたかもしれない。

奥さんの目には涙が浮かぶのが見えるほどであった。

しかも、しっぽが雨の中、一生懸命鳴いているその場所は、よく猫一家が皆でギュウギュウに折り重なりながら収まっていた、あのカゴの中なのである。

皆の匂いが、母である小町の匂いが染み付いている、あのカゴである。

その時しっぽは、外に母親の小町の姿を見たのだろうか、兄弟達の姿を見たのだろうか…。
それとも降りしきる冷たい雨に凍えていたのだろうか、真っ暗闇に心細く震えて鳴いていたのだろうか…。

間違いなく言える事は、その時しっぽは、そこにひとりぼっちだったという事。

そう、今夜、

本当にしっぽは置いてきぼりになってしまったのである。

つづく