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見出しタイトル 初めてのお泊まり

一番どんくさくて、成長も遅れていて、甘えん坊のしっぽ。
ひょっとして、まだ親離れもできていなかったのではないだろうか。

それなのに、この冷たい雨の夜に、真っ暗なベランダでずっとひとりぼっちでいたのである。
どんなに寂しかったか、どんなに心細かったか、ひとりぼっちで必死に鳴いていたのである。

夫婦がベランダに来てからも、しっぽは鳴くのを一向にやめようとはせず、ひたすらに外に向かって鳴き続けていた。
夫婦はとてもでないが、しっぽをそのまま雨が降り込むベランダに放っておく事はできなかった。

たまらずに奥さんが、

「部屋に入れてあげてもいいでしょ」

と、旦那に聞くと、「もちろん」と、すぐにしっぽを部屋に入れる事にした。

小町達猫一家は不思議と夜になると、小町と一緒に部屋からベランダへと移動して、夜は必ずベランダの木箱の中で過ごしていたので、あえて夫婦も夜に猫達を部屋の中へ入れる事はなかったのである。

それが、飼い猫ではない、あくまで野良猫の小町とその子猫達との、絶妙の距離感でもあったのだ。

そして、他の子猫達が旅立ち、小町もすっかり姿を見せなくなった最近でも、しっぽはそれまでと同様、夜はベランダの木箱の中で過ごしていたのである。ただ、ひとりぼっちではあったが…。

しかし、今夜のこの状況で夫婦が迷う事はなかった。

子猫達の中でもまだまだ小さかったしっぽをベランダのカゴの中からひょいと抱きかかえて、すぐに部屋の中へと連れて行ったのである。

夫婦にとっては、猫と夜を一緒に過ごすのは初めての事である。
もちろん、しっぽにとっても人間と夜を一緒に過ごすのは初めての事である。
それ以前に夫婦はこんなに長い間、1匹の猫と一緒にいるのも初めての事となるのである。

とは言え、これまでも部屋には入っていたし、子猫達の中でも特にしっぽは人懐っこく、よく一緒に遊んでいたので、さほど警戒心がなかったのは幸いであった。

部屋に入れてからは鳴く事もなく、濡れた小さな身体をタオルで拭いてあげて、暖かい部屋の中にちょんと置いてあげると、初めはまだ寂しそうな、そしてちょっと戸惑っているようでもあったが、だんだんとしっぽも落ち着いてきたようであった。

※本文と写真は特に関連はありません。


つづく